「あれは…懸想と言うのか」
　マイグリンは迷惑げに言った。
　昨日ガルアイニオンの前でサルガントに捕まり、信じてもらえぬのなんのと繰り言を述べられている所にエクセリオンとグロールフィンデルが来合わせた。
　彼らが話したのならこの迷惑事は、エガルモスばかりか、王の耳にも入っているに違いない。
　「実を申せば、大層お可愛らしかった王子に学問をお教えしながら、よくも手を出さなかったものと…皆で思っておったのです」
　エガルモスは、闇色の鋭い瞳を腹立たしげに細めている王子を好ましげに見ながら言った。
　「ふん、サルガントもそのようなことを言っておったわ。不埒なことよ。だが一つ申して置くが…」
　「―――は」
　「……いや、なんでもない」
　間を置いたマイグリンに居住まいを正したエガルモスは、そのまま目をぱちくりさせた。
　軽々しくは口を開かず、そして一度口を開けば、相手を納得させずには置かぬ弁舌を持つ王子が、そのように言いかけた言葉を引っ込める姿など、ついぞ見たことがなかったのだ。
　「王子？」
　「いや良い」
　「マイグリン殿、なんなりとお話し下さい」
　これは、王子の心をもう一歩開かせる好機であるに違いないと、エガルモスは親身な様子で言葉を継いだ。
　マイグリンは強弓を謳われるエガルモスの古強者らしく落ち着いた顔をよくよくと見ると、苦い木の実でも噛んだように口を曲げて、また視線を外に向けた。
　「王子、些細なことではこのヘブンリーアーチの君主は揺らぎませんぞ」
　「うむ…」
　マイグリンは遠くを見たまま頷くと、ゆっくりと口を開いた。
　「良いか聞き流せよ」

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