「カーノ、どうしたのだ？」

　兄、マイズロスの声にマグロールは突かれたように部屋の内側に顔を向けた。

大理石の床の思い思いの場所に敷かれた絨毯や毛皮の上では、遊び道具を蹴散らして五人の弟達が無邪気に転げ回っていた。

　「あ…。」マグロールは開きかけた唇を慌てて噛むようにして閉じた。

　兄が不審そうに自分を見る。マグロールはその兄に泣きついてしまいたい気持ちをぐっと押さえた。

　「長いこと浮かない顔をしている。春の宴にマンウェ様に難しいお題でも頂いたのか？だとしたら、私ではおまえの役には立てないが…。」

　「いいえ！兄上は私に、いつも素晴らしい着想を下さいます。」

　 マグロールはきっぱりと顔を左右に振って言った。

　ノルドールの誰もが褒めそやすように、フェアノールの長子マイズロスは秀でて見目形麗しく、心根もまた力強く真っ直ぐで…、兄ほど、しなやかで美しい若木と喩えるのに相応しいエルダールは居ないとマグロールは強く確信していた。

　だから、長子同士などと理由を付けては兄に纏い付くフィンゴルフィンの息子は、マグロールにとって若木に付く煩い虫だった。

　「…なんだ。フィンゴンの事を考えているのか。」マイズロスは弟の額を指先で軽く叩いて言った。

　本当に小さいよちよち歩きの頃から、弟は従兄弟が来ると渋面を作っていた。

　「私はお前の兄なのに、いつも何を心配しているんだ？」

　マイズロスは幼い子を安心させようとするかのように、弟に優しい笑みを浮かべて言った。

　相手が従兄弟なら邪魔立ても出来るのに…。

　兄の包容力に満ちた笑みに、思わず口を突いて出てしまいそうになる言葉を、マグロールはまた唇を噛むようにして飲み込んだ。

>>>>>> 花の宴