軽やかで明るい太鼓の律動に、高く低く波の寄せるように歌われる声と竪琴と横笛の旋律が、マイグリンの脳裏に一つの景色を浮かび上がらせた。
　黄金の光と、艶やかな白い大岩が輝く緑野…。
　何者の姿もない果てのないような西の地平、高く真っ白な山の聳える東、その上には恐ろしいほどに青い空が広がり、辺りは濃密な空気に満たされている…。
　マイグリンはふと、指先に残っていた痺れが、解けて抜け落ちるのを感じた。脳裏に映ったのは彼が話に聞いただけの、目に見えぬ強い力で満たされた世界のようだった。しかし、これと似た空気を自分は知っていると、マイグリンは思った。
　それは夏の門の祝祭の日、東に昇る一番の曙光を振り仰いだ時の都に降り注ぐ黄金の空気に似ていた。
　「王子がこのような場にお越しになるとはお珍しいですな。いかなる風の吹き回しですか？」合奏を終えると、まだ歌っているかのような声でサルガントは言った。
　「此度はアングハバールに長く居すぎた。これより暫くは都で享楽にでも触れようと思ってな。」
　「それは宜しい。」サルガントはおっとりした笑みを浮かべて言った。「私が、厳しい教えをいたしたばかりに、王子が山と鍛冶場ばかりを好まれるようになってしまったのではないかと、実は少々気に病んでおりました…。」
　「何時の話だ。」マイグリンは憮然として言った。「最早、そなたに子供扱いされる歳ではないぞ？」
　「まったくだ。だが我らはハープの長からすると、未だに剣をおもちゃにしている子供なのだ。」エクセリオンはそう言うと澄んだ笑い声を上げた。
　「そこまでは申しておりませんぞ？」
　「いや、分かっている。」エクセリオンは、輝く瞳でサルガントを見て言った。「そなたがあれこれ教えたトゥオルを見よ。彼は剣より斧を帯びる方を選んだではないか。そなたが剣をいかに悪しき所から来たものか語ったからに違いあるまい。…とは言え、彼の斧は剣より鋭いがな。」
　「いずれにせよ、斧の方が剣より役に立ちましょうな。人の子はそれを知っていたまで、私は皆に語る伝承以上はトゥオルにも語ってはおりませんぞ。いかに剣嫌いの私とて、方々の剣でもて、黒き敵より守られて居ることは重々承知しております。それを、おもちゃなどと申しては、私の方が物笑いの種。」
　「私は笑いはせぬぞ、サルガント。そなたは剣を捨てても、勇敢なハープ家の戦士達をここまで引き連れて来たのだからな。……私も、出来ることなら、鋼の重さなど忘れて、こうして楽の音に身を任せておきたいものだ。」
　「ここに居れば可能であろう？」マイグリンはエクセリオンの輝く瞳を見て言った。
　「世に隠された難攻不落の都、このゴンドリンならば可能であろう？」
　「…そうですな、王子。」泉の長は、マイグリンのトゥアゴン王と同じ智慧に優れて慎重な面立ちを見つめると、何かを深く考えるようにしてゆっくりと頷いた。