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　太陽が紺青の空を、山脈の向こうに去ろうとしていた。
　 マイグリンは西の大門の上に立ち、門前からオルファルヒ・エホールへと真っ直ぐに延びる石畳の道を見ていた。
　 石畳はトゥムラデンの緑野を抜け、その先の切り立つ渓谷の入り口には彼が作った堂々たる鋼の門が、頭上高くにゴンドリンの王冠を掲げて聳えていた。 渓谷の奥の秘密の扉は人の子が都を訪れてより後、扉に至る外界から入り口そのものが塞がれ、今そこは完全に閉ざされた道となっていた。 しかし石畳の道は、トゥムラデンのどこからでも踏み込め、踏み込んだその足を馬を、アモン・ガレスの丘に聳える都の門前まで易々と導いた。
　 この道を、丘の途中で断ち切り跳ね橋を設けねば…。
　 そう思い、マイグリンは角を滑らかに研磨された白い大理石の城壁に、握りしめた拳を置いた。
　 背後、王宮に向かって延びる王の道の向こうからも、慌ただしい気配さえ聞かれぬ。
　 しかし、西からトゥムラデンに落ちるエホリアスの影が、都に近づくに連れ、治まっていた拷問の傷があちこちで痛みを発し始めていた。 それは、モルゴスによって身体に刻まれた、明らかな裏切りのしるしだった。
　 「…これは申し訳ない、マイグリン殿。」
　門塔の上に登り切るや突然こちらを振り返ったマイグリンに、トゥオルは目を丸くして言った。
　 「驚かせてしまいましたか？」
　 マイグリンは、人の子の姿を鋭い目で見渡した。
　 「何の用だ。そなたの西門の見張りはもう済んだであろう。」
　 その言葉に、金髪のトゥオルは困ったように瞬いた。
　 北の門塔にいた彼は、都に戻ったと聞いたばかりのマイグリンの姿を西の門塔に見出し、ただ駆けつけただけだった。
　 「よいわ。」マイグリンはそう言うと、再び門の外へ目を向けた。
　 かつてこの都に一時滞在するを得たトゥオルの父のフオルも、何故か同じように瞳を輝かせ、マイグリンの鍛冶場や時に採石の現場までも見たがったものだった。
　 定命ゆえ…と、マイグリンは思った。
　 定められた年月を終えれば枯れ落ちてしまうゆえ、ヒルドールはせわしなく多くのものに好奇心を抱き、良いものも悪いものも振りまいたまま、何処かへ去ってしまうのだ…。
　「そなた、あれを見てどう思う…」
　 マイグリンは石畳と、アモン・ガレスの城門に続く長い石段を示して言った。
　 「もし敵が、トゥムラデンに入ったなら、都の門は一溜まりもないと思わぬか？」
　 トゥオルは驚いたように、暗く鋭い瞳を持つマイグリンの横顔を見た。都を捨てこの地を去れと言う、トゥオルのもたらしたウルモの警告を、トゥアゴン王と共に頑強に拒否したのはマイグリンだった。
　 「警告を…。」都が滅びの運命にあるという警告を聞いてくれるのかと、トゥオルが言おうとした時マイグリンは否定するように首を振った。