「…く…っ。」マイグリンは呻いた。
　あてど無く放った精の余韻に、マイグリンの肩は震えていた。　その震えを、彼の局所を貫いた一物にも感じながら、サルガントは、再びマイグリンの体に緩慢に指を這わせ始めた。
　「やめろ…サルガント……」マイグリンは押し殺した声を漏らした。サルガントはまだ血を滲ませている傷には触れぬよう気遣いを見せながら、その指先でマイグリンの体を辿り、彼が纏っている強い意志の鎧の繋ぎ目を確実に探り当てて行った。
　「やめぬか…！」痛みではない肉体を駆り立てる苦しみに、マイグリンは二本の柵に戒められた腕に力を込めた。
　モルゴスの闇の力で送り返されたアングハバールの鉱山から、部下達にも気取られぬよう何食わぬ顔で馬を駆けさせ、都に戻るまで耐え抜いた拷問の傷の痛みが、この見慣れた館へ来て彼を昏倒させた。
　 それは、国民に己を臆病者と呼ばせて憚らぬサルガントへの侮りと油断が原因だったとマイグリンは思った。マイグリンの裏切りを知ったサルガントは、マイグリン自らがトゥアゴン王にモルゴスが来ることを警告し、都の民を救って裏切りの汚名をそそげと言った。
　それは、マイグリンには何としても肯き得ない事だった。都が陥落せねば、マイグリンには永久に何の利も無いのだ。 しかし、こうして迂闊にも戒められては、最早サルガントが王の近衛に自分の裏切りを告げるのを待つばかりだった。そう して、自分は父エオルが忌みじく予言した通りに、カラグドゥーアから投げ落とされ処刑される事だろう。
　「縄をほどけ───。」
　胸中に、アングバンドで彼を支配したのと同じ、耐え難い絶望感が沸き上がり、彼は首を振り後ろに立つサルガントへ厳しい声を発した。
　「これ以上は傷を増やされますな。」
　縄が腕に食い込むにまかせ遮二無二に体をよじるマイグリンを、サルガントは背後から力を込めて抱きしめた。
　「傷が増えれば、王宮へ戻るのも遅れましょう。」
　その言葉に、マイグリンは動きを止めた。
　「そなた本当に、他言せぬと言うのか。」
　「先ほど申し上げた通り、王子のお心が民を救う事へ変わり汚名をそそがれる事を、わたしは願っております。」
　「ならば、縄をほどけ。」マイグリンは尊大に言い放った。
　しかしサルガントはそれには応えず、代わりに先刻から巧みに刺激していたマイグリンの胸先と一物を同時に撫で上げた。
　「……ァ…っ。」意図せずマイグリンは、きつく背を反り返らせた。
　「…そなたが…このような気性であったとはな…。」高まった息を押さえながらマイグリンは苦々しく言った。
　「もっと早くお教えすべきでしたな。」サルガントはマイグリンの腰を引き寄せながら言った。

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