「尽きぬ涙を汝らは流すであろう。ヴァラールは、ヴァリノールに汝らの入るのを拒み、汝らを閉め出すであろう───。」
　トゥアゴンは苦く呪いの一節を呟いた。空は西方へと続いていても、彼らの嘆きの声はアマンの山並みを越える事はなく。海は閉ざされ、助力を願う便りと祈願を託した船は、二度と再び港に帰ることはなかった。ウルモの警告に従ってシリオンを下ったとて、如何なる船が我らを西に運ぶのか。フィンロドが築いたナルゴスロンドも、シンゴルのドリアスも滅び、古からエルダールの暮らしたファラスも荒廃し果て、モルゴスの死の影は今やベレリアンドの全てを覆っている。マンドスの呪いが解かれることのない限り、隠れ岩山を出た民を待つのはより大きな死の影でしかない。しかし、トゥアゴンは、隠れ岩山がこのままであり続けるとは努々思っていなかった。ノルドールは死の影に覆われているが、マンドスの呪いには人の子は織り込まれていない。双方から生じた星はきっと、運命の鎧の綻び、宣告の壁の罅になるに違いない、その星が大きくなる時まで…、今はそれを待つ時だと彼は思っていた。
　「我が君、御前に…。」
　「───ああ、そこにある。」
　サルガントの声に、トゥアゴンは王の間の内陣を示した。
　「これがないと、周りの者も落ち着かぬようです。」
　サルガントは内陣に入り、長椅子に立てかけられた金の竪琴を持ち上げて言った。
　「グロールフィンデルは、そなたが剣を持たずとも鍛錬を忘れておらぬと言っていたぞ。その竪琴の重さは、ガルドールの鋼の槍にも匹敵するとな。」
　風の吹き抜けるバルコンから、部屋を振り返りトゥアゴンは言った。毎日決まった刻限で城壁を見回る人の子の銀の兜が、今は、西の門を越えた所で輝いていた。
　「王命でも剣を持たぬと、サルガントが不遜を言っていたとは言っておりませんでしたか？」
　「いや。」トゥアゴンは笑って、サルガントの立つ王の間の内陣に入った。
　「それに、…そなたの得物も、剣だけとは聞いておらぬしな。弓も槍も、斧もあるものを、剣を持たぬが不遜とはなるまい。」
　「恐れ入ります。」サルガントはそう言って、王に恭順を示すように瞼を伏せた。
　「見よ、美事であろう。」
　トゥアゴンはそう言うと、サルガントを卓の傍に招いた。そこには鋼に銀を施した透かし細工の箱があり、中には大きな青く輝くものが納められていた。
　「マイグリンから届けられた、エホリアスの成果だ。」
　トゥアゴンは、その青い石の一つを取りだしてサルガントに手渡した。
　「これは…。」

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