早い秋を思わせる黄金色の夕日が、白い塔と高棲からなる都ゴンドリンを、トゥムラデンの谷間に咲く百合の花のように彩っていた。
長く都を空けてアングハバールの鉱山から戻ったマイグリンは部下たちを先に彼らの作業場に帰し、自身は独り、都の防御を視回る様に西の大門から城壁の上を南へと歩いて行った。
南の城壁のすぐ傍には、まだ造られて日の浅いウィング家の真白い館があった。
それは王の娘イドリルを娶ったフオルの息子トゥオルに王が与えたものだった。
マイグリンはその館を一瞥すると、その目に仄暗い笑みを浮かべた。
ゴンドリンドリムの王トゥアゴンの妹、白き姫アレゼルの息子であるマイグリンは令名高き勇士であった。
父はナン・エルそスの暗間のエルフだったが、その姿は母の族に似て、背は高く髪は黒く肌は白く、そして黒っぼい瞳には、知恵に満ちた鋭い光が湛えられていた。
百と五十余年前、この隠れ岩山に王の甥として迎え入れられた彼は、優れた鍛治の技術で自分の周囲に鍛治や採掘に向く者たちを集め、都から離れた山中で働くエルフたちの指導者となり『黙々と働く者達』と言う謂でその一門をモール家と名づけた。
そして彼ら、中つ国のエルフに痛恨の打撃を与えたモルゴスとの第五の合戦、ニアナイス・アルノイディアドでは摂政として都に留まることなく王の傍らに立ち、敵に情け容赦の無い、恐れを知らぬ勇士として、その令名を揺るがぬものとした。
館から軽やかな竪琴の音がして、マイグリンは往きすぎようとした足を止めた。
奏でられていたのは誉高いトゥオルの歌であった。
マイグリンはそれを歌う聞き知った声に口元を僧々しげにゆがめると、城壁から館に程近い小路に音も無く降り立った。
弦の響きが止むと、銀の鈴が鳴るような幼子の声が聞こえ、それに答える女達のさざめきが聞こえた。
マイグリンは黙して、館の扉が開くのを待った。
果たして、トゥオルの家の扉は開き、中からは白い長衣に金の房飾りのついたマントを纏った竪琴弾きのサルガントが現れた。
その膝元にはトゥオルの息子、幼いエアレンディルが楽しい歌を聞かせる友人を帰らせまいと纏いつき、彼の左腕の竪琴を奪おうと長衣の裾を握って背伸びしていた。
「続きはまた明日、このサルガントは必ず参りますよ。エアレンディル様」
サルガントはおっとりした面立ちに笑みを浮かべてそう言うと、真っ直ぐな髪を夕風に吹かせて腰をかがめ、エアレンディ ルと彼の侍女たちに会釈をしてトゥオルの家を辞した。
ほっそりした体に腰よりも長い髪を靡かせた姿はまるで垂柳のようであったが、彼はエルダールの伝承に通じたハープ家の長であった。
彼は大きな竪琴を我が子のように抱え、水の流れるポプラの美しい街路に出ると東に足を向けた。
「トゥオルは王宮か」
その背にマイグリンは前触れも無く呼びかけた。
振り返ったサルガントは、夕日が投げる城壁の影の下に黒々と立つゴンドリンの王子の姿に、白いおもてに笑みを浮かべて 会釈した。
「───此度は大分長く鉱山におられましたな。ニアナイスの合戦の勇士とて万一はあるものと、少々心配しておりました」
その言葉をマイグリンは鼻で笑った。
「万一があったとて、そこもじに何が出来る。ニアナイスを知らぬ者は軽々しく語らぬことだ。臆病者は王に媚びへつらう歌だけを作っていれぱ良い」
「───御意」
サルガントは静かに領いた。
彼は己の臆病さを良く知っていた、敵と聞けぱ心が凍り武器の鳴る音には身がすくむ…、彼は その思いを隠そうとはせず、それはこの都の誰もが知っていることだった。
「人の子は王宮かと聞いたのだ」
マイグリンは、黒い剣の柄をカチリと鴫らして言った。
「はい」
サルガントは、その音に眉を顰めて答えた。
「…やつの顔など見たくもない。お前の館に行くぞ」
マイグリンは吐き捨てるように言うと、黒いマントを翻してサルガントの脇を抜けた。
その風からは微かに血の匂いがした───。
＊ ＊ ＊
都の南部には古のエルダールの伝承を伝える学者や賢者、熟練の楽人が多く住まい、そのサルガントの館は彼らの集う学府であった。
「ここにおいでになるのは久しぶりですな」
館の奥にマイグリンを招き入れサルガントは言った。
昔、ナン・エルモスの闇を逃れてこの輝かしい都に来たマイグリンはここで多くの知識を学んだ。
得うる限りのものを速や かに習得しようとするマイグリンは、賢者たちの覚えも良い熱心な生徒で、伝承の師たるサルガントはその一の言葉から十を読み取るマイグリンの怜悧さを深く愛した。
「湯浴みの準備をさせましょう」
サルガントは言った。
一瞬と思われた血の匂いが、まだマイグリンから漂っていた。
「いや良い…、小川で水を浴びてきた」
マイグリンはそう言って、サルガントが召使を呼ぶのを押しとどめた。
「しかしマイグリン殿、血の匂いがいたします。狩でもしてこられたか？」
「そんな筈は無い」
彼は鋭い目でサルガントを見ると、王宮の白い塔の見える中庭に面したテラスに出た。
サルガントは不審に思いながらも、その後に従った。
しかし、マイグリンの後に立つと、木々の清清しい香りの中に、戦を思わせる血の匂いがはっきりと感じられた。
「もしや怪我でもなされておられるか？」
サルガントは長い旅から戻ったぱかりのマイグリンの身を案じて言った。
彼が無駄な事は言わず、極めて忍対強い性質をし ていることをサルガントよくは知っていた。
「何事もない───。喉が乾いた、水を持ってきてくれ」
彼は煩げに言うと、頂きを入日に染めて夕空に聳える王の塔を見上げながら、旅に疲れた黒いマントを外した。
「マイグリン殿！」
サルガントは教え子の背を見て厳しい声を上げた。
マントの下の黒い上着は、その布地の色でも隠しようの無い程、赤黒く滲んだ血で汚れていた。
マイグリンは困ったように立ち尽くした。
サルガントは無礼を承知の上で、可否をも問わずマイグリンの上着の襟を開きもろ肌を顕にさせた。
「これは…！」
サルガントは己の目を疑った。
宵闇の中に晒されたマイグリンの体には、あろうことか、無数の鞭の跡がついていた───。
「このような酷い目を、いったい誰があなたに…」
サルガントは怒りに突き動かされたように、瞳に強い光を持ってマイグリンを見た。
マイグリンは言いよどみ、サルガントから目をそらすと、己を落ち着かせるように深く息を吐いた。
「私を、非難しないと言ってくれるか？」
「あなたを非難するですと？何故ですマイグリン殿。このような酷い日にあったものを更に非難するなど、あなたがどれほど過ちを犯したと言うのですか？」
「私は、王の掟を破ったのだ」
マイグリンは、深い悔俊の表情で言った。
「新たな鉱石を求めて私はエホリアスを出てしまった。そして…オークどもに捕まりアングバンドに連れて行かれたのだ」
サルガントは言葉を失った。
「しかし私はやつらの隙を見て逃げ出した。―――この事を、王に伝えるが良い」
マイグリンは暗い目をサルガントに向けて言った。
「きっと私は禁を侵した廉で、父と同じように処刑されるだろう」
「あなたは、エオルのように誰かを死なしめたわけではない、王はあなたを自分の息子のように思っておられるのだから、そのように厳しいご処分が下るはずは無い。それよりも、アングバンドから無事帰還されたあなたを誇りに思われるかもしれな
い」
サルガントの言葉にマイグリンは首を振りた。
「いや、王子といえど禁を侵した者は罰するのが公正なる王だ」
サルガントはマイグリンの傷を見た。
鞭跡は深く刻まれ、それは未だ所々で血を疹ませていた…。
彼は都の人々が知らぬ間にモルゴスに囚われ、そしてこのような無残な目にあい、その上王の裁きを受けようと言うのだ。
「まず、傷の手当てをいたしましょう」
サルガントは、急ぎ傷に塗るため薬を取りに行こうとマイグリンに背を向げた、するとマイグリンはその肩を掴みサルガントを自分の方へ引き寄せた。
「マイグリン殿？」
「行くな」
マイグリンはサルガントの金のマントの肩口から、そのおもてを覗き見るようにして言った。
「少し、傍に居てくれ」
マイグリンは体を震わせ、すがるようにサルガントの肩を抱きしめた。
サルガントは痛ましい思いに、眉間を寄せた。
この事を王に知らせれぱ、マイグリンが罰せられる事は間違いなかった。
トゥアゴン王はゴンドリンの民に、エホリアスの囲みを出る事を固く禁じているのだから…。
しかしサルガントは、モルゴスの拷問を受げた上に、トゥアゴン王の罰までがマィグリンに下るのはむごい事だと思った。
「他言はいたしますまい」 (*挿絵1)
サルガントはマイグリンの冷えた手に、自身の手を重ねて言った。
「…どうか、もう二度とエホリアスの囲みを破られるな」
「ああ。二度と囲みの外には出ない」
マイグリンは、闇色の瞳を暗く光らせて言った。
＊ ＊ ＊
マイグリンは眠っていた。
夢の中の、長い長い入り組んだ洞窟の中は、どこまでも赤黒い闇が続いていた。
延々と打ち続けられる鞭の痛みに、体はぴくぴくと反応し続け、精神は休みない苦痛によじれて今にも狂いそうだった。
『お前がゴンドリンの王子か』
広間の底知れぬ深い闇を湛えた天井から、耳障りなオークどもの言葉とは違う、身の毛のよだつ程、明瞭で力のある声が響いた。
『トゥアゴンの王国はどこにある』
それはマイグリンの心臓を、氷の手で掴んだ。
マイグリンはその黒い影の見上げるような頭上に、恐ろしいほど美しい二つの宝玉が輝いているのを見た。
煌々とした光は激しくマイグリンの目を焼いた。
そしてマイグリンは、望んだものを手に入れるまでは、絶対に死にたくないと思った───。
「マイグリン殿」
サルガントが呼ぶ声に、マイグリンは死の夢から生き返った。
「苦しんでおられた」
「…ああ」
マイグリンは領いた。
眠りは、エルダールの魂を肉体から離れた自由の世界に遊ばせるものであるのに、モルゴスの恐怖を味わったマイグリンの魂は肉体を離れると忽ちモルゴスの牢屋に囚われるのだった。
マイグリンはサルガントが差し出す杯から、ゴンドリンの清涼な泉の水をごくごくと飲んだ。
しかし、もう二度と自分の魂が夢の中たりとも安らぐ事がないのをマイグリンは知っていた。
「サルガントよ。私が、モルゴスの冠に嵌ったシルマリルの二つを、この日で見てきたと言ったら、フェアノールの息子達は歯噛みするかもしれんな」
マイグリンは口の端に暗い笑みを浮かべて言った。
「…そうですな」
サルガントは痛ましい思いを胸に抱き、静かにマイグリンに同意した。
「そなた、私がアングハバールヘ行ったままもどって来ねぱ良いと思っていたのではないか？」
マイグリンは、ふいに意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「…なぜ、私がそのような事を？」
サルガントは驚き、マイグリンの顔を見た。
「エアレンディルも大層、そもじに懐いていたではないか、王の世継ぎに、孫の代まで取り入るとは竪琴弾きの見事な腕前よな」
「滅多な事をおっしゃるな…」
サルガントはマイグリンの言葉を諌めた。
人の子の様に定命を持たぬエルダールにとって、世継ぎが立っということは、王が不慮の死を遂げると言うのと同義の、不吉な言葉であった。
「滅多な事だと？」
マイグリンは嘲笑を浮かべて言った。
「そなたトゥオルの歌を歌いながら、この都が永世何もなく居られると思っているのか？」
サルガントは瞳を曇らせた。
人の子たるトゥオルが、トゥアゴン王に与えたウルモの警告を、ゴンドリンの十二の氏族に数えられるハープ家の長サルガントが知らぬはずは無かった。
『ノルドールの作り上げしものはすべて滅ぴぬ。
マンドスの呪いの成就は間近し。
都を捨てこの地を去りシリオンを下り海へ出よ』
しかしトゥアゴン王は自らが作り上げたこの美しい都を深く愛し、その警告を容れなかった。
王は、ヴァラの一人に否定されようともこの、世に隠された都の難攻不落さを信じ、王に従う家々の長たちもその思いを同じくした。
「マイグリン王子よ、この隠れ王国の守りの堅さは、あなたが王の御前で語った通りではないか、エホリアスの山々は高く聳え、外からはいかなる越すべき道も無いと」
「ここに在ると知らぬものには見つけられぬ、しかし在ると知れぱ道など作るのは簡単だ」
マイグリンは、瞳に残忍そうな光を浮かべた。
彼は寝台の横に立てかけられた彼の黒い剣を握り、その鞘の口を緩めてまたカチリと音をたてた。
サルガントは、その音に微かに眉をひそめた。
「上のエルフはみな勇敢だと学んだが、剣の一つで震えるそなたは生まれ損ないよな」
「アマンを出なけれぱ良かったと…、モルゴスの解き放たれる以前は、世界に剣などは無かったのです」
「もう、過去には戻れぬ」
「そうですな」
フェアノールに扇動され、多くの民がその勇敢さを示そうと剣を掲げた。
ハープの家の若い民達も勇敢さに後れを取るまいと意気を上げた。
一門の長たるサルガントはその民達を見捨てる事はできず、フィンゴルフィン王の旗下ヘルカラクセを渡ったのだった。
「案ずるな、私に従うならそなたを戦に出させたりはせぬ」
マイグリンはそう言うと、竪琴弾きの長い髪を揃んで床に引き倒し、金の房飾りのついたマントを剥ぎ取ってその胸元をはだけた。
「何をされる？」
驚き目を見開くサルガントの顔の横に、マイグリンは乱暴に黒い剣を投げた。
サルガントは重い鋼の音に身を竦ませ、マイグリンを諌めるように見た。
そのように武器をひけらかすのは、まるで相手を脅そうと言う仕草である。
そしてマイグリンは、何かの思いに憑かれたように、上のエルフの透ける様な光をまとう体をむさぼりはじめた。
サルガントは耐えられず、胸をそらせて身じろいだ。
マイグリンは抵抗しようとする体を押さえつけ、執拗にその肌をむさぽった。
「戯れは、程ほどにされよ」
サルガントはかつての教え子に諭すように厳しい声で言った。
その途瑞、頭上に鋼の擦れる音が響き、彼の喉には鞘を抜かれた黒い剣の刃が押し付けられていた。
サルガントは、信じられぬ思いでマイグリンを見た。
「マイグリン殿、一体どうされたのだ。同族に剣を向けることは、例え戯れでも忌むべき行いとご存知であろう」
「お人よしのサルガント。…そなたは、よく私を同族と呼んでくれるな」
マイグリンは喉の奥で笑った。
「エルダマールの栄光も、ヴァラの一人とて目にした事のない私を同族とな？だが、私が父と同じ暗問のエルフだとしても、そなたと同じ上のエルフだとしても、…そんな事は、私には何の価値もないことだ」
マイグリンはそう言うと、サルガントの喉元にきつく刃を当てたまま、膝で長衣の裾を捌いた。 (*挿絵2)
「やめられよ！」
下肢の極所にマイグリンの一物が当てられサルガントは声を荒げた。
しかし、何かに憑り付かれたようなマィグリンはひと息にそれを貫いた。
「うっ………」
サルガントは漏れる声を噛み殺した。
マイグリンの物が、体の中で尚も怒張し、そしてサルガントはそれに激しく突き上げられた。
「何故、このような事を…。」
「そなたはアマンで見ておろうが、シルマリルは美しかった。フェアノールの技をこの日で見れた事はアングバンドに囚われた収穫よ。……美しいものを見ると命が惜しくなる、欲しいものを得ずしては死にたくないという思いが強く沸き起こった」
マイグリンは、刃を当てられた喉を苦痛に反らすサルガントを見下ろして言った。
「拷問など今となっては安いものだ。私は…いずれ望んだものを手に入れるだろう」
その言葉にサルガントは喉に刃が食い込むのも構わず、マイグリンの肩に手を仲ぱした。
「それはどう意味です？」
「喉が切れる」
「構いません」
「……そなたをここで殺しては計画が台無しだ」
マイグリンは冷酷な笑みを浮かべた。
そして邪魔者のように黒い剣を脇へ投げると、掴みかかる両腕を捉えてサルガントを引き起こし、そのまま己の体の上に乗せた。
「……く…うっ！」
体深くに収まった物の熱さにサルガントは肩で喘いだ。
「私が欲したものを、そなたは知っておろう」
マイグリンは低く笑いながら言った。
「昔、そなたは言ったものだ、エルダールは従来、従姉の如きの近い親族に思いを抱くのは、心にある歪んだものの現れとみなすのだとな…」
マイグリンはこの都に来て、習えるかぎりを習い、氏族の長になり令名を高めた。
そのすべては、この都に迎え入れられた時から、彼の心を占めた王の娘、光輝の姫イドリルを得るためであった。
「そなたの言葉に間違いはない、私が本当に欲している事はこのゴンドリンを手に入れること…お前達の王になることだ。私がイドリルを欲したのは王の娘だからだ。だが、王になれぱイドリルも手に入る。ゆえに、私は『やつ』と取引したのだ」
「王子…なに、を……」
サルガントは責め上げられ呻きながらも言った。
「私が…、我が一門をモールと名づけた時、そなたはモールの名をたしなめたな。モールには『敵のまわしもの』と言う意味があると言ってな…」
マイグリンはそう言って心地よさげに目を細めた。
「まさか…、この都の在り処を敵に……？」
「そうだ」
マイグリンは体を揺らして笑った。
「聞いたな？もう逃げられぬぞ」
「まだ間に合いましょう、トゥアゴン王にお知らせを…!」
しかし、逃れようとするサルガントの体をマイグリンは押さえつけ、激しくなぶり続けた。
「行くなら、私を殺して行け」
マイグリンは、黒い剣を目で示して言った。
「私を死なせ、そしてヴァラの守りの無いこの地を、永遠にそルゴスに怯えて逃げ回るが良い。……だが、私を王とするなら、この美しい都を世に隠れ無き都に変え、より
栄えさせるぞ」
「そのような、敵の甘言を…信じられるのか？マイグリン殿、これは、あなたの行いとはとても信じられぬ…」
「何も得ずに死ぬよりも、一時でも望みのものを手に入れられる方が、はるかに良いではないか」
マイグリンはかの地で目にしたシルマリルと、イドリルの輝く姿を思って言った。
「まだ時間はある。この場所を知ったとて、やつらも簡単には攻めてはこれぬ。それまでに、そなたは身の振り方を考えよ。だが、サルガントよ。私はもう、そなたの事は逃がさぬぞ。この秘密を知るのはそなただけだ。そなたは私に仕えよ、そなたの戦士達もだ。そうすれぱ、そなたの事は私が守ってやる」
マイグリンは息を荒げながら、サルガントの蒼ざめたおもてを鋭い光を放つ目で見て言った。
「ああ…」
サルガントは都を覆った闇に、苦痛と嘆きの声を漏らした───。
麗しい七つの名を持つ隠れ岩山の都は陥落する…。
マンドスの呪いの種子は、
予言の通り疾うにこの都に蒔かれていたのだ…。
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